株式投資で配当金以外の収入を得られる方法として、近年注目されているのが「カバードコール戦略」です。
株式を保有しつつ、コールオプションを売ることでプレミアムを受け取り、横ばい相場でも安定したインカムゲインを狙えます。
本記事では、カバードコールの仕組み、メリット・デメリット、実践例、注意点、税金面、そしてETFを活用した方法まで、投資経験者にも初心者にもわかりやすく解説します。
今回の記事はこんな方にオススメ
- オプション取引に興味がある人
- カバードコール戦略について知りたい人
目次
1. カバードコール戦略の基礎知識
▶カバードコールとは
カバードコール戦略とは、株式を保有しながら、その株に対応するコールオプション(買う権利)を売るという取引方法です。これにより、保有株からの配当金に加えて、オプションを売った際に得られるプレミアム(オプション料)を収入として得ることができます。
特に、株価が大きく動かない横ばい相場や、緩やかに下落している局面では、カバードコールが安定した収益源となることがあります。そのため、米国株投資家や高配当ETF投資家の間で広く利用されており、QYLDやXYLDといったカバードコール型ETFも人気を集めています。
例えば、100株のアップル株(AAPL)を保有し、その株に対してコールオプションを1枚(100株分)売ると、それはカバードコールになります。もしオプションが行使されても、保有株を渡せば良いため、裸売り(カラ売り)よりもリスクは低いのが特徴です。
▶株式とコールオプションの組み合わせ
カバードコールでは、以下の2つのポジションを同時に持ちます。
①株式現物のロング(買い)ポジション
例:AAPL株100株を保有
②同銘柄・同数量のコールオプションのショート(売り)ポジション
例:権利行使価格150ドル、1か月後満期のコールオプションを売る
▶プレミアムと権利行使価格
①プレミアム:コールオプションを売ることで受け取れるオプション料。これがカバードコールの追加収入源です。
②権利行使価格(ストライク価格):オプションの買い手が株を購入できる価格。この価格をどう設定するかが戦略の成否を分けます。
▶必要な証拠金
現物株を保有していれば、その株式が担保になるため追加の証拠金は基本的に不要です。ただし証券会社によっては、一定の維持証拠金を求められる場合があります。
2. カバードコール戦略のメリット
▶オプションプレミアムによる追加収入
カバードコールの最大の魅力は、株式保有による配当金に加えて、オプションプレミアムを受け取れることです。横ばい相場でも利益を積み上げられるため、長期保有投資家にとっては心強い戦略となります。
▶株価下落時の緩衝効果
株価が下落しても、受け取ったプレミアム分だけ損失を軽減できます。完全なリスクヘッジではありませんが、一定の下落相場に耐えられるクッションとなります。
▶比較的低リスクなオプション戦略
裸のオプション売りと違い、現物株が担保となっているため、株価が急騰しても株を渡すだけで済みます。過大な損失リスクを抱えにくい点も、初心者がオプション取引を始める際の入り口として適しています。
▶配当と併用できる
保有株が配当を出す銘柄であれば、配当金とプレミアムの二重取りが可能です。高配当株や高配当ETFと組み合わせることで、インカムゲインを大幅に向上できます。
3. カバードコール戦略のデメリット・リスク
▶株価急騰時の上昇益が限定される
カバードコールでは、売ったコールオプションの権利行使価格以上の株価上昇益は得られません。
例えば、株価が100ドルから急騰して150ドルになった場合でも、権利行使価格110ドルでコールを売っていれば、110ドルで株を売却する義務が発生します。つまり、上昇局面で大きな利益を逃すことがあります。
▶売却義務が発生する可能性
オプションが行使されれば、保有株を売却しなければなりません。長期保有を目的としていた株式が手元からなくなる可能性があるため、特に配当目的で持っている銘柄の場合は注意が必要です。
▶満期前の価格変動による評価損益の変化
満期までの間に株価やボラティリティが変動すると、オプションの評価損益も変動します。
特に短期的な値動きが大きい相場では、含み損益が不安定になり、心理的な負担が増すことがあります。
▶流動性や手数料の問題
流動性の低い銘柄では、希望する条件でオプションを売ることが難しくなります。また、日本国内ではオプション取引が主に日経225オプションや一部のETFに限られるため、米国株で実践する場合は海外口座や米国株オプション対応の証券会社が必要です。加えて、オプション取引は株式よりも手数料が高めに設定されている場合が多い点にも注意しましょう。
4. 注意点・失敗例
カバードコール戦略は、正しく運用すれば安定した収益をもたらす可能性がありますが、設定やタイミングを誤ると機会損失や損失拡大の原因になります。過去によくある失敗例を挙げます。
▶権利行使価格の設定ミス
権利行使価格をあまりにも低く設定すると、株価が少し上昇しただけで権利行使され、株を手放すことになってしまいます。長期的に値上がりを期待している銘柄の場合、過度に低いストライク設定は避けるべきです。
▶決算やイベント前の売り建て
決算発表、業績予想修正、新製品発表など、株価を大きく動かすイベントの前にカバードコールを仕掛けると、急騰によって大きな機会損失を被ることがあります。イベント日程は必ず確認しましょう。
▶流動性の低い銘柄での取引
オプションの板が薄い銘柄では、望む条件で取引が成立しにくく、スプレッド(売値と買値の差)が広くなります。結果として不利な価格で約定しやすく、利幅が削られる恐れがあります。
▶過度な頻度での売り建て
頻繁にオプションを売ると、相場急変時の対応が追いつかなくなることもあります。戦略的に期間を決めて行うことが重要です。
5. カバードコール戦略に向いている人・向いていない人
▶向いている人
①長期保有を前提とした株主
配当や安定収入を重視する投資家は、保有株から追加収入を得られるため相性が良いです。
②横ばい〜緩やかな下落相場で利益を出したい人
値動きが少ない局面でも収益化が可能です。
③オプション取引の入門者
裸売りよりリスクが低く、オプションの基礎を学びやすい。
▶向いていない人
①短期的な大幅上昇益を狙う人
株価急騰時に利益が制限されるため、成長株狙いには不向き。
②保有銘柄を絶対に売りたくない人
権利行使で株を売却する可能性があるため、長期保有を強く望む銘柄には向きません。
③流動性の低い銘柄しか保有していない人
オプション売買が難しくなる可能性があります。
6. 税金面の取り扱い
カバードコール戦略を行う際には、税金の扱いも理解しておく必要があります。日本では、株式の譲渡益とオプションの売買益はそれぞれ異なる課税区分になる可能性があります。
▶株式部分の課税
株式売却益は、通常の株式譲渡益として申告分離課税(税率20.315%)が適用されます。NISA口座であれば非課税となりますが、オプション部分は別扱いとなります。
▶オプション部分の課税
オプションの売買益は、株式と同様に申告分離課税の対象です。ただし、海外証券口座を利用して米国株オプションを取引する場合、証券会社によっては税務計算を自分で行う必要があります。
▶配当との併用
配当金は配当所得として課税されます。総合課税を選択して配当控除を利用できる場合もありますが、オプション取引と合算できるわけではないため、課税計算はやや複雑です。
▶NISAでの利用可否
現状、日本のNISA制度ではオプション取引を直接行うことはできません。カバードコールETFをNISAで保有することは可能です。
7. カバードコールETFの活用
カバードコール戦略は個別に行うこともできますが、実際には銘柄選定やオプション売買の管理が必要なため、手間や経験を要します。そのため、戦略を自動的に行ってくれるカバードコール型ETFが人気です。
▶代表的なカバードコールETF
①QYLD(Global X NASDAQ 100 Covered Call ETF)
ナスダック100指数構成銘柄に対して毎月カバードコールを行い、高い分配金を支払うETF。分配利回りは概ね10%以上と高水準。
②XYLD(Global X S&P 500 Covered Call ETF)
S&P500構成銘柄に対するカバードコール。広く分散されており、安定的なインカムを狙える。
③RYLD(Global X Russell 2000 Covered Call ETF)
小型株指数ラッセル2000を対象にしたカバードコール。値動きは大きいが、その分プレミアムも高め。
▶ETF活用のメリット
①個別銘柄やオプションの取引知識が不要
②毎月安定した分配金が得られる
③海外ETFなら日本の証券会社からも購入可能(SBI証券、楽天証券、マネックス証券など)
▶ETF活用のデメリット
①株価上昇時の値上がり益が限定される点は同じ
②高利回りだが、分配金の一部が元本払い戻し(Return of Capital)の場合がある
③基準価額が長期的に下落傾向になる可能性もある(タコ足配当問題)
8. まとめ
カバードコール戦略は、株式を保有しながらコールオプションを売ることで、配当金に加えてオプションプレミアムを収益源とする戦略です。
横ばい相場や緩やかな下落局面でも安定したインカムゲインを得られるため、長期保有型の投資家にとって有効な選択肢となります。
一方で、株価急騰時の上昇益が制限されることや、イベント時の急変動による機会損失といったデメリットも存在します。そのため、戦略を実行する際には、権利行使価格の設定、取引のタイミング、流動性の確認といったポイントを意識することが重要です。
定期的な収入を得る手段として活用できるため、メリット・デメリットをそれぞれ把握し、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。