経済の不安定化やインフレ、円安が進む中、「金(ゴールド)」への関心が高まっています。金は有事やインフレに強い「守りの資産」として長年にわたり価値を保ってきた実績があり、資産の分散や老後資金の保全手段として注目されています。
中でも、金に手軽に投資できる「金ETF(上場投資信託)」は、現物を保有することなく少額から始められることから、多くの個人投資家に人気です。本記事では、金ETFの仕組みやメリット・デメリット、代表的な銘柄、他の資産との比較、さらにはNISAでの運用まで、投資初心者にもわかりやすく解説します。
今回の記事はこんな方にオススメ
- リスクを抑えて投資をしたい人
- 金投資に興味がある人
目次
1. 金ETFとは?仕組みと特徴
金ETFとは、「金の価格に連動する投資成果を目指す上場投資信託」のことです。ETFという形式を通じて、金そのもの、あるいは金の先物や金関連資産に投資する仕組みになっており、証券口座があれば誰でも株式と同じように売買ができます。
▶金ETFの主な仕組み
金ETFには大きく分けて2つのタイプがあります:
- 現物保有型:実際に金(ゴールド)を保管しており、その価値に連動するタイプ(例:SPDRゴールド・シェアなど)
- 先物連動型/金価格連動型:金の先物取引などを通じて価格に連動するタイプ(例:国内ETFの1540など)
現物型は金そのものに裏付けされているため安心感があり、長期保有にも適しています。一方、先物連動型は短期的な値動きへの対応や価格差での利益を狙う目的に向いています。
▶金現物との違い
金ETFは、金地金(インゴットなど)や金貨と違い、実際の金を保有・保管する必要がありません。そのため、保管料や盗難リスクを心配することなく、手数料を抑えてスマートに金に投資できます。
▶投資信託との違い
ETFと一般的な投資信託との違いは、主に以下の通りです。
| 項目 | 金ETF | 金投資信託 |
|---|---|---|
| 売買の自由度 | 市場でリアルタイムに売買可能 | 一日一回、基準価額で注文 |
| 手数料 | 信託報酬が比較的低め | やや高めのものもある |
| 取扱い口座 | 証券会社(株式と同じ口座) | 証券・銀行・ネット証券など |
| リアルタイム性 | 価格が常に変動し売買タイミングを選べる | 決済は翌営業日以降 |
ETFは株式のようにタイミングを見て買えるという特徴があり、金価格に敏感に反応した投資戦略が可能です。
2. 代表的な金ETFの紹介【国内・海外】
金ETFには日本国内でも取引できるものから、米国市場に上場しているものまで多様な種類があります。ここでは代表的な銘柄を紹介します。
▶国内の代表的な金ETF
| 銘柄コード | 名称 | 特徴 |
|---|---|---|
| 1540 | 純金上場信託(現物国内保管型) | 金価格(円建て)に連動、現物保管型 |
| 1326 | SPDRゴールド・シェア | 米国ETFを東京市場で取引可能、現物保管 |
| 1672 | 金価格連動型上場投信 | 先物に基づく連動、円建て |
国内ETFは、日本円建てで為替リスクが少なく、現物保有型を選べば安定性も高いため、初心者にも適しています。
▶海外の代表的な金ETF(※米国市場)
| ティッカー | 名称 | 特徴 |
|---|---|---|
| GLD | SPDR Gold Shares | 世界最大の金ETF、流動性が高く人気 |
| IAU | iShares Gold Trust | GLDより信託報酬が低く、コスト重視向け |
| SGOL | abrdn Physical Gold Shares ETF | スイスで金を保管、安全志向の投資家に |
米国ETFはコストや流動性に優れている反面、為替リスクや外国税制にも注意が必要です。ただし、2024年から始まった「新NISA・成長投資枠」では一部の米国ETFも非課税枠の対象となっており、長期投資に活用する人も増えています。
3. 金ETFに投資するメリット
金ETFには、現物の金や他の投資商品にはない多くの魅力があります。特に安定資産としての特性は、長期的な資産形成を目指す人にとって重要なポイントです。
①保管や盗難の心配が不要
金の現物を保有する場合は、保管場所の確保や盗難リスクの対策が必要です。しかし金ETFであれば、実物を持たずに「金に投資している状態」を維持できるため、セキュリティ面の心配は不要です。
②少額から投資できる
金のインゴットや金貨は高額で手が出しにくい印象がありますが、金ETFなら1口数千円から購入できます。NISA口座でも買えるため、非課税枠を活用した積立も可能です。
③株式・債券と異なる値動きで分散効果が高い
金は株式や債券と相関が低いため、ポートフォリオに組み込むことで全体のリスクを下げる効果が期待できます。特に株価が下落する局面では、金が逆に買われることもあり、「守りの資産」として役立ちます。
④グローバルに評価される資産
金は世界共通の価値を持つため、通貨や国の信用に左右されにくい点もメリットです。インフレ、通貨下落、経済危機といった状況に強く、実際に有事のたびに金価格は上昇する傾向があります。
4. 金ETFのデメリットとリスク
一方で、金ETFには他の資産と異なるリスクや注意点もあります。デメリットをしっかり理解してから投資することが大切です。
①配当がない
金は利息や配当を生まない資産です。そのため、金ETFに投資してもインカムゲイン(定期収入)は期待できません。利益は売却益(キャピタルゲイン)のみとなるため、長期保有前提での運用が求められます。
②金価格の変動リスク
金は安全資産とされますが、短期的には価格の変動もあります。経済指標や金利動向、中央銀行の政策などによっても影響を受けやすく、タイミングによっては値下がりする可能性もあります。
③為替リスク(外貨建てETFの場合)
米国ETF(GLDやIAUなど)を購入する場合、金価格の動きだけでなく、ドル円為替の変動も投資成果に影響します。円安であれば利益が増えますが、円高時には金価格が上昇していても、為替差損が出ることがあります。
④信託報酬などの運用コスト
ETFには「信託報酬(年間の運用手数料)」がかかります。一般的に0.2〜0.4%程度ですが、長期投資では積み重なるコストになるため、なるべく低コストのETFを選ぶのが理想です。
5. 金ETF vs 他の資産(株式・債券・不動産)
資産運用の中心は多くの場合「株式」「債券」「不動産投資」などですが、それらと金ETFはどのような違いがあるのでしょうか?以下にそれぞれの特徴を比較してみます。
| 資産クラス | 特徴 | 収益 | リスク | インフレ耐性 |
|---|---|---|---|---|
| 株式 | 成長性・配当 | 配当+値上がり益 | 高い | △ |
| 債券 | 安定収益 | 利息収入 | 低〜中 | × |
| 不動産 | 安定収益+実物資産 | 賃料+資産価値 | 中〜高 | ○ |
| 金ETF | 安全資産・分散効果 | 値上がり益 | 中 | ◎ |
▶金ETFは「守り」としての役割が強い
株式や不動産は景気に連動して価格が変動しやすいため、好景気には強い反面、不景気時には大きな下落もあります。これに対し金は、景気後退時や市場不安が高まる局面で買われやすく、「下支え」として機能します。
また、金は世界的に需給が安定しており、インフレが進むと価値が上がりやすいため、実質的な購買力を守る手段としても有効です。
6. NISAやiDeCoによる金ETF購入について
資産形成を進める上で欠かせないのが、NISAやiDeCoといった税制優遇制度です。これらの制度を活用すれば、金ETFへの投資にも大きなメリットが生まれます。
▶新NISA制度での金ETF投資
2024年からスタートした新しいNISA制度では、「成長投資枠」に該当するETFであれば非課税で投資が可能です。具体的には以下のような金ETFが対象になります。
- 国内ETF(例:1540 純金上場信託、1326 SPDRゴールド・シェアなど)
- 一部の米国ETF(証券会社によって取扱いが異なります)
ただし、NISA口座で外国ETFを購入する場合、証券会社がNISA対応にしているかを事前に確認する必要があります。
▶iDeCoでの金ETF購入
現状、iDeCo(個人型確定拠出年金)では、金ETFに直接投資することはできません。iDeCoで選べる商品は、主に投資信託や定期預金・保険商品であり、ETFは対象外です。
しかし、金価格に連動する金関連投資信託がラインナップに含まれている場合もありますので、運営管理機関(証券会社や銀行)の商品リストをチェックしてみると良いでしょう。
▶税制メリットとの相性
金ETFは配当がないため、「配当非課税」というNISAの恩恵は得にくい一方で、値上がり益がすべて非課税になるという点では非常に有利です。長期的に金価格の上昇を見込んでいる人には、NISA口座を活用する価値があります。
7. 金ETFの選び方と投資タイミング
金ETFは種類が多く、それぞれに特徴があるため、目的に応じた選び方が大切です。また、購入のタイミングも収益に影響を与える要素となります。
▶目的別に選ぶポイント
| 投資目的 | おすすめのETF | 理由 |
|---|---|---|
| 為替リスクを避けたい | 国内ETF(1540など) | 円建てで価格が動くため、為替影響を受けにくい |
| コストを抑えたい | IAU(米国ETF) | 信託報酬がGLDよりも低い |
| 流動性重視 | GLD(米国ETF) | 世界最大規模の金ETFで売買がしやすい |
| 安定した裏付け重視 | SGOL(米国ETF) | スイス保管・信頼性の高さが魅力 |
▶タイミングの見極め方
金価格は様々な要因で動きますが、以下のようなタイミングは買い時となりやすいとされています:
- インフレ率が上昇傾向にあるとき
- 中央銀行(特にFRB)が利下げに転じたとき
- ドル安・円安が進んでいるとき
- 地政学リスク(戦争・紛争など)が高まったとき
- 株式市場が不安定で下落傾向にあるとき
一度に大きな額を投資するよりも、定期的に少額ずつ買う「ドルコスト平均法」を活用すれば、価格変動の影響を抑えて安定的に積み立てることができます。
8. 初心者が金ETFを買う際の注意点
金ETFは手軽で便利な商品ですが、初心者が投資する際には以下のような点に注意する必要があります。
①長期目線での運用を前提に
短期的な価格変動に振り回されると、思わぬ損失を出す可能性があります。金ETFは基本的に長期的な資産保全・リスク分散を目的とした投資であり、「守りの資産」としてポートフォリオに加えるのが基本です。
②コストに注意
信託報酬はETFごとに異なるため、購入前にチェックしておきましょう。0.2〜0.4%程度の差であっても、10年・20年と長く持つ場合には差が大きくなります。
③為替の影響を理解しておく
米国ETFを買う場合、為替リスクがつきものです。円高になれば利益が削られる可能性があるため、為替相場の動きにも注意しましょう。為替リスクを避けたい方には、円建ての国内ETFがおすすめです。
④金と他資産のバランス
ポートフォリオの中で金を組み入れる割合は、一般的に5~15%程度が目安と言われています。リスクヘッジとして金を持ちすぎると、資産の成長性が落ちる可能性もあるため、株式・債券とのバランスを意識しましょう。
9. まとめ:金ETFは安定した資産形成の有力な選択肢
金ETFは、現物を保有することなく金に投資できる、非常に利便性の高い金融商品です。老後資金の備えとしての安全性や、インフレや経済危機への対策としても有効な手段であり、初心者からベテラン投資家まで幅広く活用されています。
特に、以下のような方には金ETFが非常におすすめです。
- 将来の年金や資産が不安な方
- 株式だけでなく「守り」の資産を持ちたい方
- インフレ対策を考えている方
- 分散投資の一環として資産構成を強化したい方
新NISA制度との相性も良く、長期投資における非課税メリットを活用すれば、金の価格上昇による利益を効果的に享受できます。
一方で、金ETFは配当を生まないため、インカムゲインを重視する方には他の資産と組み合わせる形での活用が推奨されます。信託報酬や為替リスクといったデメリットもありますが、それらを理解し、バランスよく組み入れれば非常に頼もしい存在となるでしょう。
安定した資産を築くための一歩として、金ETFという選択肢をぜひ検討してみてはいかがでしょうか。